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■近代文藝之研究|研究|近代批評の意義(6)

■近代文藝之研究|研究|近代批評の意義 (6)

さて此の彫刻像は博物館中では同じく有名な、世界に二つとないベルヴヱデヰアのアポロと相隣して、何れも別格の取扱を受けてゐる。傳説によるとラオコーンはトロイ人のために希臘の神ネプチューンに捧げ物をせんとしてアポロの怒に觸れ、海から上つて來た二頭の大蛇のために、先づ二人の子を聖壇の前で捕られ、之れを助けんとした父みづからも遂に取り殺されたといふ。
彫像は即ち此の親子三人が大蛇に取り卷かれた瀕死の瞬間を刻んだもので、其の大蛇に締めつけられる七轉八倒の苦みを現はしたのである。中央に立てるラオコーンが體は、そつて、右の手に大蛇の胴を高く掲げ、左の手は將に腰のあたりに咬み入らんとする首を掴んで、體躯手足の筋肉の怒張に、非常なる苦鬪の力を表し、顏は絶望の眼と吟呻の口とに限り無き苦痛を臓してゐる。



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*註1:此の彫刻像
「刻」の正字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/koku_kizamu.jpg

*註2:ベルヴヱデヰア
「ヱ」は小文字表記

*註3:希臘の神ネプチューン
原本では「ネ」が「子」と思われる小文字表記。

*註4:聖壇の前で
「聖」の旧字体。「王」が「壬」。
「前」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/zen_mae.jpg

*註5:助けんとした父
「父」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/hu_chichi.jpg

*註6:遂に取り殺された
「遂」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/sui.jpg

*註7:親子三人
「親」の正字体。Unicode にも文字種がないようなので作字してみた。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/shin_oya.jpg

*註8:刻んだもの
「刻」の正字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/koku_kizamu.jpg

*註9:締めつけられる
「締」の正字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/tei_shimaru.jpg

*註10:高く掲げ
「掲」の旧字体。旁が「曷」。

*註11:腰のあたり
「腰」の俗字。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/you_koshi.jpg

*註12:首を掴んで
「掴」の正字体。「手扁」+「國」(「掴」は俗字体)
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/kaku_tsukamu.jpg

*註13:體躯手足
「躯」の正字体。「身」+「區」。(「躯」は略字)

*註14:苦鬪の力
原本では「苦」は「若」となっていたが誤植と思われるので改めた。

*註15:絶望の眼
「絶」の正字体。旁の「色」が「刀」+「巴」。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/zetsu.jpg

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■抱月『近代文藝之研究』を註記なしに通しで読みたいかたは、こちらをどうぞ。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/kbk_tobira.html




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