■近代文藝之研究｜研究｜藝術と實生活の界に横たはる一線｜八　(１)

　　　　　　　　八

藝術が消極的に實生活と異なるのは、其の我的情緒から離れ局部的快苦から離れるにあること以上の如しとして、其の積極的方面を見ると、これは最早或る度まで前來の説で言ひ及んだ氣味であるが、詮ずる所實生活から離れると同時に、擾々の聲、執着煩勞の情が稍朦朧となり、靜な觀照の態度にはいる。行ふ態度から味ふ態度にかはるのである。手や足の活動からは引き退くかも知れぬが、それだけ心の活動に突つ込んで行く。實生活で經驗することの出來なかつた別意識の香りがさして來る。所謂生の味に到達するのである。廣くいへば快感だが、狹くいへば其の事柄に對して今まで知らなかつた不思議を見るやうな、成程さうもあるかといふやうな、懷しいやうな忘れがたいやうな氣持ちを起こす。



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＊註１：消極的に
「消」の旧字体。旁の「ナオガシラ」は「小」。

＊註２：我的情緒・煩勞の情
「情」の正字体。「月」は「円」。
「緒」の正字体。
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＊註３：前來の説
「前」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/zen_mae.jpg
「説」の旧字体。旁は「兌」。

＊註４：詮ずる所
「詮」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/sen.jpg
「所」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/tokoro.jpg

＊註５：引き退く
「退」の旧字体。「シンニョウ」は「二点シンニョウ」。

＊註６：突つ込んで
「突」の旧字体。「穴」＋「犬」。
「込」の旧字体。「シンニョウ」は「二点シンニョウ」。

＊註７：所謂
「所」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/tokoro.jpg

＊註８：到達する
「達」の旧字体。「シンニョウ」は「二点シンニョウ」。

＊註９：成程
「程」の旧字体。旁の「王」が「壬」。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/hodo_tei.jpg

＊註10：氣持ちを起こす
「起」の正字体。旁の「己」が「巳」。

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