■近代文藝之研究|研究|藝術と實生活の…(28)
- カテゴリ:その他
- 2010/02/17 02:45:10
■近代文藝之研究|研究|藝術と實生活の界に横たはる一線|七 (3)
そも/\筆を執り刷毛を執つてそれを紙や布に書いてゐる餘裕が無い。感ずるところは如何に切であらうとも、いざ文にしやう、繪にしやうといふ瞬間には、そこに餘裕が無くてはならぬ。但し餘裕とは出來たものがのんきな緩んだ調子だといふのでは無い。作中の感情は如何に逼迫してもよい。たゞ之れを作る人の氣持で、一寸離して眺めるのである。譬へば視角を整へるために睫毛の傍から向ふへ其の物を突き出すといふ態度である。是れが無ければ決して佳い文藝は出來ないと信ずる。是れだけの距離が無ければ、悲しいのはたゞ泣く譯である、怒るものは直ちに怒鳴る譯である、其の泣く聲、怒鳴る聲を文字や色彩に托する餘地がありながら、尚それが離れたものでないといふのは、僞りか、然らずんば内省の疏漏である。藝術は必ず此の自己を第三者化する所に發出の虧隙を求めるものと信ずる。
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*註1:そも/\筆を執り
原本ではこの文頭は前ページの文末より改行なしでつづいている。
「/\」は踊り字・くの字点。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/odoriji.jpg
*註2:いざ文にしやう・佳い文藝・文字や
「文」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/bun_aya.jpg
*註3:緩んだ調子
「緩」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/en_yurumu.jpg
*註4:作中の感情
「情」の正字体。「月」は「円」。
*註5:逼迫してもよい
「逼」の旧字体。「シンニョウ」は「二点シンニョウ」。
「迫」の旧字体。「シンニョウ」は「二点シンニョウ」。
*註6:視角を整へる
「視」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/shi_miru.jpg
*註7:物を突き出す
「突」の旧字体。「穴」+「犬」。
*註8:色彩に托する
「彩」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/sai_irodori.jpg
*註9:尚それが
「尚」の旧字体。「ナオガシラ」は「小」。
*註10:内省の疏漏
「内」の旧字体。「冂(=エンガマエ)」+「入」。
*註11:第三者化する所
「者」の正字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/mono.jpg
「所」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/tokoro.jpg
*註12:發出の虧隙
「隙」の俗字。旁の上の「小」が「少」。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/suki.jpg
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http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/kbk_tobira.html