■近代文藝之研究｜研究｜藝術と實生活の界に横たはる一線｜七　(２)

此の説に對して起こる非難の重なるものが二箇條あるらしい。一は岩野泡鳴氏によつて提起されたものであるが、難者の言う所によると、自己に有關心有利害な活動即ち我的情緒の伴ふものゝ外に、藝術活動は無いといふ。是れは素材としての情緒と、それが藝術の形を取る瞬間の心的状態とを混じた粗匆である。乃至は夫の實感と假感との説を誤解したものゝ流亞である。作家が自己の痛切に實感する所を直ちに文字なり繪畫なるに訴へて作る藝術に何の批點も無いことは論を待たない。此の意味で近代の藝術は實感の藝術である。しかも尚それが瞬間たりとも我れの利害から遊離して、第三者にならなければ決して藝術化する氣遣ひは無い。



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＊註１：此の説・假感との説
「説」の旧字体。旁は「兌」。

＊註２：起こる・提起されたもの
「起」の正字体。旁の「己」が「巳」。

＊註３：非難・難者
「難」の旧字体。
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「者」の正字体。
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＊註４：岩野泡鳴
「泡」の旧字体。旁の「己」が「巳」。

＊註５：言う所・實感する所
「所」の旧字体。
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＊註６：有利害な活動・我れの利害
「害」の旧字体。
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＊註７：我的情緒・素材としての情緒
「情」の正字体。「月」は「円」。
「緒」の正字体。
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＊註８：伴ふものゝ外に
「伴」の旧字体。旁の「半」が「拌」と同じ。
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＊註９：心的状態
「状」の旧字体。
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＊註10：粗匆である
「匆」の俗字体(か？)。「勹」＋「タ」。
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＊註11：誤解したもの
「誤」の旧字体。
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＊註12：文字なり
「文」の旧字体。
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＊註13：近代の藝術
「近」の旧字体。「シンニョウ」は「二点シンニョウ」。

＊註14：しかも尚
「尚」の旧字体。「ナオガシラ」は「小」。

＊註15：遊離して
「遊」の旧字体。「シンニョウ」は「二点シンニョウ」。

＊註16：第三者
「者」の正字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/mono.jpg

＊註17：氣遣ひは無い
「遣」の旧字体。「シンニョウ」は「二点シンニョウ」。

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