鉄の翼と壊れた心
- カテゴリ:小説/詩
- 2010/02/12 22:42:47
『アイゼンフリューゲル』(全2巻、虚淵玄 小学館ガガガ文庫)と作者についてすこし。
ひとことで言うなら「やっぱり虚淵だった」。
戦争で壊れてしまったパイロットが、竜と飛ぶこと、速度の限界を突破することを夢見て空に戻り、心を取り戻すが、しかし……という物語。
主人公の選択を「ロマンを選び、恋人の手を離した」ととったとおぼしい評を読んで、わからなくもないながら違和感を感じたのだが、つらつら考えてその理由に気付いた。
ええ「やっぱり虚淵だった」から。
読後感には、絶望を突き抜けたような爽やかさがあったけど。
でも。突き詰めればいつもと変わりがないと気付いてしまったので。
いつもの、という言葉が出るのが微妙なところで。
『Fate/Zero』あたりで知ってる人が多いのではと思うが、この作者の本業はPCゲーム(年齢制限付きの)のシナリオライターで、その作品に「いつもの」という形容を、これ書いてる人間はしているわけだ。
……いや、だから書きづらかったんだって。
もう十年ほども前、一般ゲーム雑誌に載っていたPCゲーム評が目にとまった。
「(ラブシーンがあるからではなく)こういう作品を作る者がいるから、PCゲームは面白い」みたいな意味合いの、激賞といっていい文章だった。
しばらく後にPCを新調した時、評されていた件のゲームに遭遇した(一般のすぐ横にあったので、もっとちゃんとゾーニングしろよ、とは思う)
作品名は『Phantom of Inferno』、微妙なパッケージが多いなか、銃を手に立つふたりの少女が涼やかだった。
他人の色事を眺める趣味はない(なんちゅうか滑稽に思えてしまう)が、時々反応する勘が、買え、きっと面白い……と反応した。
ヤケ気味に購入して、プレイし……茫然。
ストーリーは(作者自身公言しているが)『ニキータ』や『レオン』その他映が下敷きに見える。ストーリーの大枠は無茶。それでも、心理描写や丁寧な細部の説得力にぐいぐい読まされた。
いや、もう驚くほど面白かった。
以後、最近作以外はプレイしている。
(以前プレイしたPCが昇天し、現在Macユーザーで載せられないので。他に不自由もないのにブートキャンプするのもどうかと思って)
多分、好きな書き手さんだと思う。
発想元が割と明確な作品を書く人だが、しかし「読ませる」のは、登場人物の言動に、想いや性格が感じ取れる人物描写の上手さがあるからだろう。
(『鬼哭街』のルイリーの「よりにもよってそのふたりですか」とか、『沙耶の唄』の耕司の「手前、何様のつもりだ!」のような、想いが垣間見えてゾクリとする台詞や行動に唸らせられる)
『沙耶の唄』は、漫画の神様の名編の(作中で言及されるように)換骨奪胎・オマージュだが、こと「美少女ゲーム」(婉曲表現w)というジャンルでこれを書くこと自体、ユーザー層への(嫌がらせに近い)突っ込み、問いかけだろう。
純愛物として人気が高い一方で、悪意を感じると怒る人も少なくない(両極端な評はしかし、双方正しいように思える)。
そういう姿勢が面白い。
この作者は、年齢制限のあるPCゲームを、流血沙汰もあるアクションやグロテスクな表現もあるホラーなどを書くフィールドとして選択し、ラブシーンやそのテのシーンはむしろアリバイのようにも思える(ファンはそのテのシーンを期待せず、むしろ「無理すんな」と言っていたりする)。
余談ながら年齢制限付きゲームは、スタージョンの法則的(むしろハズレ率はそれ以上)な世界である上、一本の単価が高く、正直お薦めしづらい。
だがそのテのシーンがありさえすれば、けったいな物・実験的な物も存在できるらしく、えらく面白い物と出会えることもまれにある、ようだ。
度胸と懐の関係で、実はそれほどチャレンジしてないのだが。
虚淵が、アニメ『装甲騎兵ボトムズ』をルーツのひとつとして挙げたのは、過去作の記述から納得できたが、雑誌の神林長平特集に寄稿し『神林長平トリビュート』に参加していたのにはちょっと驚いた(意識してみれば影響が見て取れる)。
面白いと思える物を書く人と、読む側の好みが重なっても不思議はないのだが。
「バッドエンド症候群」だと言われる作者だが、『アイゼンフリューゲル』の読後感はそれを通り抜けたように明るい。
「壊れた人間が戦闘機に乗っている」と、どうしても雪風を思い浮かべるのだが、「雪風が敵だと言っている」で友軍機に見える機体を攻撃できる深井零と『アイゼンフリューゲル』の主人公・カールは、大きく異なる。
空を愛する、あまりにも善良な男が、自身が撃墜王であることに追い詰められていく。
スピードを追い、竜と競えたカールは幸せだったろうが、ロマンを追ったというより、もうそこにしか行き場所がなかったように思えた。
実は重い結末を、しかし爽やかに見えるように書いて見せたこの作者が、次はどんな話を書くのか気にかかる。
ぜひ見たい。
はい、いま第一線の監督さんの多くが、日活のそっち系でデビューと聞きます。
『おくりびと』の監督さんも確かそうだったはず。
どこででも、どんな場所でも、しっかりと自分の仕事をする人、いるんですよね。
でも、逆に言えば、ゲリラ戦じゃないと面白い物が作りにくい世の中なのかもしれません。
いえ、作者さんのメインフィールドについて書いたら、ドン引かれるだろうな〜、と思ってました。
けったいな物、見たことがない物が読みたいタチなのに、発想元が見えるのに面白い作品を書くこの人は、何が違うんだろう……と妙に気になる存在だったりします。
やはり、物語に絡んだ人物の立て方、妙に人間臭さを感じる言動(『アイゼンフリューゲル』はそこのところやや物足りなかったり)でしょうか?
次は『ブラック・ラグーン』のノベライズの二冊目が出るみたいです。
『神林長平トリビュート』に作品書いたせいで刊行が遅れたとかw
一冊目も面白かったし、正直最近のもとコミックより好みなので期待してます。
本当はオリジナルが読みたいんですけどね〜
古い日活ロマン系等など。
そうなんですよねー、一読後はなんだか寂しいような微妙な気持ちになりますね・・・・・
でも繰り返し読んでみると、やっぱりこれはこういうエンディングが必然だよなあってそういう気ににもなります。
・・・うん、書きにくいですねww
なんだかあれこれ語るのが難しい作家さんだと思います。
書評するより読むが易しww
私も、次の作品を期待しています。
今度もガガガ文庫で書いてくれるのかなあ?
どうなんでしょうね。