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■近代文藝之研究|研究|藝術と實生活の…(20)

■近代文藝之研究|研究|藝術と實生活の界に横たはる一線|五 (4)

人間は自己を表白せんとする本能的衝動を有してゐる。藝術の成る動機が即ち是れである。斯う見る説は比較的よく藝術本能の實状に適合する。唯一圖に其の品を其の品らしく作らうとする努力は、他面から言へば自己中に所有してゐる感想を其のまゝ減殺する所なく直寫しやうとする努力に外ならない。即ち自己表現の衝動である。
斯くして一旦藝術本能を自己表現本能に移すときは、こゝに藝術の目的は純内在的から一歩を轉じて、外在的になりかける。藝術の成るはたゞ藝術みづからの爲でなくして、作家が自己を表現せんためである。藝術本能といふ漫然たる自己の滿足のためでなく、むしろ自己表現のためといふことになる。自己滿足から自己表現に移つた所に思想上の幾多の展開がある。藝術以外に一層明白な標準が出來かゝつたのである。
之れを事實に照して見ても、自己の表現が其作品の價値の目安になる境地がある此の點までは穿鑿して標準を考へるが、これで行き止まり、これで滿足して作者の個性の出ると否とを最後の判斷とする批評は、此の境地を豫定するものである。



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*註1:人間は自己を
原本ではこの文頭は前ページの文末より改行なしでつづいている。

*註2:斯う見る説は
「説」の旧字体。旁は「兌」。

*註3:實状に適合する
「状」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/jyou.jpg

*註4:所有してゐる・減殺する所なく・移つた所に
「所」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/tokoro.jpg

*註5:純内在的
「内」の旧字体。「冂(=エンガマエ)」+「入」。

*註7:一層明白な
「層」の旧字体。「曽」が「曾」。

*註8:目安になる境地・此の境地
「境」の正字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/kyou_sakai.jpg

*註9:作者の個性
「者」の正字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/mono.jpg

*註10:最後の判斷とする批評
「判」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/han_wakaru.jpg
「評」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/hyou.jpg

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■抱月『近代文藝之研究』を註記なしに通しで読みたいかたは、こちらをどうぞ。
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