■近代文藝之研究|研究|藝術と實生活の…(16)
- カテゴリ:その他
- 2010/02/05 00:02:55
■近代文藝之研究|研究|藝術と實生活の界に横たはる一線|四 (4)
而して其の作品が作品になつてゐるか居ないかといふ判斷は直觀的である。尺度はたゞ自己あるのみである。其時の自己が滿足すれば其作品は其の作者に取つては作品になつてゐるのである。標準すなはち目的は内在である、潜在である、殆ど本能的に之れを判斷する。藝術本能とは實に此の謂ひに外ならない。總じて斯くの如く一切の標準、尺度、目的を自己といひ主觀といふ一名辭の中に含蓄せしめて了つたのは十九世紀のロマンチシズム以來の、傾向である。而して之れに行き止まつてゐる所に「藝術は藝術の爲」の思想が醗酵する。是れが藝術論上の内在目的論でやがて藝術論の小乘境である。けれ共更に進んで其の含糊として自己の主觀内に潜むところを、何とかして取りひろげて見やうとする所に近世美學の意義が存する。研究上の大乘境は此所まで來なくてはならぬ。
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*註1:而して其の作品が
原本ではこの文頭は前ページの文末より改行なしでつづいている。
*註2:作者に取つては
「者」の正字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/mono.jpg
*註3:内在である・内在目的論・主觀内に潜む
「内」の旧字体。「冂(=エンガマエ)」+「入」。
*註4:之れを判斷する
「判」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/han_wakaru.jpg
*註5:十九世紀
「紀」の俗字体(か?)。旁の「己」が「已」。
*註6:止まつてゐる所。見やうとする所・此所まで
「所」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/tokoro.jpg
*註7:思想が醗酵する
「醗」の旧字体。旁の「発」が「發」。
*註8:藝術論の小乘境・研究上の大乘境
「境」の正字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/kyou_sakai.jpg
*註9:更に進んで
「更」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/sara.jpg
「進」の旧字体。「シンニョウ」は「二点シンニョウ」。
*註10:近世美學
「近」の旧字体。「シンニョウ」は「二点シンニョウ」。
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